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2016.03.02
【コラム】内藤忍氏/ なぜマイナス金利なのに、円高になったのか?
1月末の日銀のマイナス金利導入発表は、市場に大きなサプライズをもたらしました。日銀がこのタイミングで政策を打ち出してきたのは、デフレを脱却し2%のインフレを実現するという目標の実現を目指したアクションの一環とされていますが、円安とそれに伴う株価上昇という思惑も同時にあったはずです。
発表直後はドル円レートが2円以上円安に振れ、株価も大きく上昇しましたが、その後急速に円高、株安が進み、日銀の思惑とは逆方向に相場が動くことになってしまいました。マイナス金利の導入によって、日本と海外の金利差は拡大しますから、セオリー通りに考えれば円安をもたらすはずです。では、なぜ今回は想定とは逆の相場展開になったのでしょうか?
最大の要因はアメリカの景気回復に対する過度な期待の剥落だと言えます。世界経済の牽引役として期待されていた米国経済は失業率の低下に伴い回復が期待され、FRBも2016年を通した利上げのスタンスをフォワードガイダンスという形で表明していました。その期待を織り込んで、米ドルが上昇してきたわけですが、発表されるデータから経済成長の鈍化が懸念され、その期待が当初より大きく低下しました。景気の減速懸念から長期金利が低下し、将来の金利上昇の可能性が大きく後退したことで、ドル高に対する期待も消えていきました。
もう1つの要因は、アメリカ以外の各国でも経済の不透明感が高まっていることです。中国の景気減速懸念は既に上海株式市場の株価推移などを通じて世界経済に影響を与えています。欧州でもドイツの金融機関の債券利払いの懸念が出てきたり、ギリシャの債務問題が再びクローズアップされたりしています。それに加え、原油価格の下落によって、エネルギー関連企業の収益悪化懸念から破綻リスクが生まれ、これらの株式銘柄の下落が株式市場全体の不安を増幅することになっています。
投資家の不安心理が高まると、資金が日本円や日本国債に集まってきます。その結果が今回の円高と株安ということです。長期国債がマイナスになるまで国債が買われているのは投資家のリスク回避姿勢が強いことを示しています。
では今後どのような相場展開が予想されるのでしょうか。為替の先行きを予想するのは難しいですが、ポイントになるのは、日銀の追加緩和の可能性と、長期的に見た金融緩和政策の出口がどこにあるかということです。
これまでの金融緩和によって、市場にはお金がだぶついていますが、実質賃金も上昇せず、消費税引き上げなど増税懸念を持っている個人があえて消費を増やすことは考えにくいと思われます。また、企業も先行きの景気に対する不透明感から、国内投資や賃上げには慎重です。このような状態が続けば、日銀はさらに追加の金融政策に踏み込み、マイナス金利幅をさらに拡大することが予想されます。しかし、現状のようなマイナス金利が長期化すれば、別のリスクが顕在化する可能性があります。
例えば、マイナス金利と日銀の国債買い入れによって、国債市場のマーケットメカニズムがうまく働かずに円金利が乱高下したり、金利低下による利払い負担が軽減されることで財政健全化へのインセンティブが弱まることがあれば、国債価格の下落リスクが高まることになります。
消費税の引き上げを先延ばしするような事態になれば、財政赤字に対する懸念がクローズアップされ、国債マーケットに変化が見られるかもしれません。さらに、長期的には日銀が買い入れてきた国債が最終的にどのような形で処理されるのか。その出口の見つけ方に市場の注目が集まるはずです。
マイナス金利導入の発表から1ヶ月。円高株安という、目先の短期的な動きだけではなく、このような長期のリスクについても常に頭の片隅に置いておくようにしましょう。
※本コラムは、マネックス証券の創業にも参加された、資産デザイン研究所代表取締役の内藤忍氏より寄稿頂いた原稿を基に構成しています。
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投稿更新日:2016年03月02日